製造業・紙の図面は無くせるか

環境に配慮して、紙を減らし、ペーパーレスにしましょう!
パソコンの使用が進み、ネットでファイル交換が即時に可能になったことで、ずいぶんと紙の使用量は減ってきました。

その一方で、製造現場では未だに紙が使われています。
FAXだって飛び交います。

私は今、図面の標準化を多くの方々と一緒に進めているのですが、これはあくまでも図面の書式などの話。

ですが、図面を紙で見るか、モニターで見るのかも実は大きく関係するので、今回はそこについて書いてみます。

図面には大きく2つの役割がある

企業間での図面の使い方について、多くの方々と意見交換してきました。
自動車メーカーの大手さんをはじめとした製造業の発注側。
それを受注して加工する町工場側。
間に入る商社。
そこで気付いたのは

設計側と加工側とで「図面の使い方・目的が異なる」という点です。

発注側となる設計の上層はでは、CADを導入し、CAE解析も積極的に使用し、デジタル化が進みました。
その恩恵は大きく、部品管理も楽になりました。
とても素晴らしいと思います。

その一方で、受注して加工側では今なお紙のままが多いのです。
そこで私の感じた根本的な要因は

発注・設計側は
基本的に図面・モニターの中で完結する(部品を受け取り、組立はまた別の人になる場合が多い)
基本的に、組立図からバラした複数の図面を同時に扱う

受注・加工側は
図面は見るだけ。あくまでも図面の外の世界、現物で仕事する。
基本的に、1つの製品図を細かく精査する

具体例を挙げます。
例えば部品の多い車や飛行機。
車なら数万、飛行機なら数百万点に及ぶ部品群。
デジタル化し、パソコンで管理し、そのデータをうまく利用して強度計算などの解析にも用いる。
そして外注先に図面データを渡す。


数万点の部品の図面を印刷しますか?
それを郵送しますか?
この図面を紙で管理するのは、もはや今の時代では完全にナンセンス、時代遅れです。なのでこの流れはとても理にかなっています。

デジタル化は
多品種であればあるほど管理しやすく向いている。
一方、少数の図面しか扱わない側では多品種よりも、1つの製品図のみをじっくり見るのでデジタル図でも紙でもどちらでもよい。

さてその、図面を受け取る受注側。

何の加工をされてるでしょうか?
車関係だったとして、車の部品も金属から樹脂、ゴム、ガラスなど様々です。
使う機械は何でしょうか?

実際、CADが最も有効なのはCADをそのまま利用し、CAMでNCデータを組み、それで機械加工をプログラム運転するのはあります。

でも、加工現場はCAMを使用しているのは半分あるか無いかです
(X上でわたくし調べ)


いやまぁ、正確な割合はわかりませんが、少なくとも汎用機、対話・打ち込みで機械操作してる企業は多いです。
何故なら、その方が早い、コストも抑えられるなどあるんです。

というよりもまず、そもそも加工製造現場ではNCプログラムで動かない機械はたくさんあります。

汎用フライス
汎用旋盤
ボール盤
ラジアルボール盤
カシメ機
スロッター
ノコ盤
コンタマシーン
研磨機
研削盤
自動盤
溶接機
ライン用に設計された専用機
リューター・やすり・グラインダーなど手作業
成形機
鋳造機
鍛造機
転造機
プレス機
そして最新なはずのティーチングの協働ロボットですらも
(入力を作業者の動きをマネして動かすものです)

そして製造現場はこれだけでもないです

塗装
組立
検査

探せば他にもあるでしょうか

すなわちこれ、加工者からすれば図面は見るだけでいいので、CAMは関係ありません。
無理にデジタル化した図面である必要が全くないのです。
いやそれより、小さいモニターで見るのは不便極まりないわけですよ。

加工現場では、複数の図面を同時進行が当たり前にあります。
通常、モニターには1つの図面を見るので精一杯。
デュアルモニター?
大型モニター?
それで複数の図面並べますか?
平面図・側面図・断面図など即座に見比べられますか?

さらには注意点に色を塗りたい
終わったとこに印を入れたい
加工で使った数字を入れたい
測定値を入れたい

これ、CADで的確に誰でもわかりやすく書き込めるのってありますか?

さらには、油や切粉などで汚れた手でパソコン触ってられますか?
印刷した紙なら汚れてもいいですよね?(また印刷すればいい)

もちろん、パソコンでCAD図を見た方が線は正確だし、記載されてない寸法は計れるし、拡大縮小、3Dなら回転もできるし。
でも薄い板ものだったりすれば、無理に3D化した図面より2D平面図の方がスッキリなんですよねえ。
2D平面図でよければ、紙でいいわけですし。

なのでこういう使い勝手という点では、やはり紙は捨てたもんじゃない、と私は思います。

紙から脱出できない教科書・カタログ

少し方向を変えた話をします。
学校の教科書
商品のカタログ
これらもまた、いまだに紙が多いです。

「紙の方が見やすい、覚えやすい、見つけやすいんだよねぇ」

という感覚を一度でも持ったことはありませんか?
やはり小さなモニターで見るよりも大きく印刷されたものがいいし
ページもめくりやすいし、付箋のブックマークもできるし
最も大事な、記憶の定着のしやすさがあります

もちろん、特定のキーワードを検索するようなのはデジタルが有利でしょう。
そこはうまく使い分ければいいと思うんです。


そして、また話はさらに別でもう一点、最近興味深いと思ったのがこの光の認識の話。

認識の仕方にも、もちろん個人差はあります。
でも理屈だけではない、人間の本能の部分は、とても大事なのではないでしょうか。

そういえば昔、3Dテレビがありました。
飛び出る!すげぇ!立体!
でもこれ、なぜ消えてしまったのか?
これも大きなヒントだと思います。

モノづくりは五感で行う

ここで製造業に話を戻します。
加工側では一つの部品を、上下左右天地、全ての面から見て、断面も把握して頭に入れる作業が必要です。

そして、作業者は加工する現物を目視します。
これは、仮想デジタル図面ではありません。
具現化する現実世界です。
生半可な想像力では、具現化することはできません。

でもその一方で、3Dの方が形状を理解するのに向いている面も当然あります。
平面図から立体を想像するのが苦手な方には断然3Dでしょう。
が、それはざっくりと形状を見るまでの話し。
細かな寸法一つ一つを追っていくのは実は3Dだとわかりにくいのもあります。

特にこの数字を追う作業、モニターのバーチャルデジタル図面より、具現化された平面紙図面の方が頭で認識しやすい、です。個人的には。

(ここら辺の図面が2Dがいいか3Dがいいかは、また切り口が異なるので、別で書く予定です)

最近私は、図面ってほんとバーチャルだよなぁと思うことが多々あります。
どんな間違った形状にでも、どれだけでも精度良く表現可能です。

それを具現化するには、何をどれだけ必要とするか?
パソコンの中だけで見ていると、到底想像がつかない世界になってしまいます。

ここの感覚の差に気が付かないから、ペーパーレスができる・できない論争が続くのではないでしょうか。

結論・図面はデジタルで共通のものを用い、紙は現場状況に合わせ自由に使おう

あくまでも私の考え方ですが、まず現状、図面の種類が多岐に渡りすぎてます。

3D図面にしても、ネイティブそのままか
(設計者さんと全く同じCADデータを閲覧すること)
それともCADが異なり、中間形式に変換するか
(英語からフランス語に翻訳するようなものなので、面落ちや文字化けなど差が出る)

3Dでなく、2D平面図にするか
CADデータのままか
pdfの画像にしてしまうのか
それを印刷しFAXで送るなど、ほんとに紙化するのか、もうぐちゃぐちゃ。

というわけで、私の考える理想は
発注側・受注側は全く同じデジタルのCAD図面形式STEPでやり取りをする。
(平面図も3Dが表現できる形式に一緒にして統一する)
そこに寸法線は一緒にし、dxfやpdfとか使わない。
(なので無償な誰でも使えるCADビューワーが欲しい)

加工者は、都度必要に応じて紙に印刷して自分用として自由に使う。
(紙に書いた変更点などはデジタルCAD図にフィードバック忘れないで)
それをさらに受注者側がCADを使用しない相手ならFAXで送信してもいいけど、字は大きく!かすれた文字のまま送信しない!

現場では、図面で困る話も多々ありますが私としては

・判読しにくくなる紙系の話
(FAX、スキャンで文字が読みにくい)

・公差の話
(やたら精度要求が高い)

・寸法線の記入の仕方の話
(バラされた図面で、どこに何があるか判読が難しい)

・ムチャな設計の話
(そもそも形状が難しい、無理がある)

以上にわけられると思いました。
基本的に他人との図面データのやり取りはCADデータで。
公差もそこにきちんと記入。pdfとかにわけない。
そうすれば、まず半分はクリアできるのではないかと。

まだこれが実現するには図面書式の定義方法、CADが対応してないなど様々な問題がありますが、目的をきちんと見定めれば一つ一つ解決できると思っています。

今日も元気に金型作ってます!